消せるペンは欠陥だらけ。これで商品として販売していいのだろうか。
では、この「消せるペン」は大ヒット、made in Japanの名にふさわしい、ハイクォリティ商品なのだろうか。今回このペンについて書こうと思ったきっかけが、次のような事が続け様に起こったからだった。
仕事柄、常にメモを取る知人がすごく便利で気に入っていた消せるペン。
ある初夏の日、車内にボールペンとメモ帳を書類ケースに置いていた。いざメモを見てみると書いていたはずの字が全くないのだ。冒頭に書いたが、摩擦熱で消えるこの特殊なインクは、車内温の上昇で消えてしまったのだった。更にメモの文字だけではなく、消せるペン自体も熱の影響なのか、書く事が出来なくなっていた。
どういうことだと思い、ボールペンをよく見ると、ペンの外部と同系色の文字で「60度以上になるとインキが無色になります」と書かれているではないか。注意書きには「証書類・宛名書きには使用できない」とも書いてある。
なぜなら、郵送段階での環境(高温)で文字が消える事があるためだという。
では、実際に60度と言うのは我々が生活を営む上で、意識しないで良い温度の範囲と言えるのであろうか。
ここに検証の必要性を感じ、実際に車内に置いていた知人から話を聞き、私自身も消せるボールペンの文字が本当に消えてしまうのか試してみた。
まず、第一に今年の2月、まだ雪が降る日が多い寒さの中、車内に置いてみた。もちろん真冬なので、車内温が60度以上になることは絶対にない。その状況でエンジンをかけ、車内エアコンの空気口(ボンネット上と助手席の足を置く場所のマットの上)にヒーターの設定温度を最高(32度)にして文字を書いたノートと消せるペンを置いてみた。するとどうだろう、2箇所とも綺麗に文字が消えてしまった。ボンネット上の空気口に置き、風を当てたノートとペンに関しては、僅か10数秒の温かい風を当てただけだったというのに。
そして、第二に5月末、今年は夏前だというのに気温が高い日が続いている。そんな暑い日の最中、文字を書いたノートと消せるペンを車内に放置してみた。この日の最高気温は27度、直射日光を真正面から受けた車内の最高温度は58.9度だった。こちらも30分にも満たない時間で綺麗さっぱり文字が消えてしまっていた。おまけに消せるペン自体も文字を書く事が出来なくなってしまった。こんな事で簡単に文字が消えてしまったり、ペンのインクが出なくなったりして、商品として大丈夫なのだろうか。
なぜなら、よく聞く話だが毎年夏、パチンコに興じている間、車内に子供を放置して死亡させてしまう悲惨なニュースが報道される。それも当然な話で、JAF(日本自動車連盟)のサイトでもアップされているが、真夏の車の車内温度はとても高温になる。夏場の車内の温度は外気温が35度を超える猛暑日には、80度近くまで上がるのだ。60度でインクが無色になると言うのであれば80度であれば当然、簡単に文字が無色になってしまう。そして、この消せるボールペンの被害が多いからなのか、何故かJAFのサイトでも車内温度の影響の検証材料として使われていて、もちろん綺麗に字が消えてしまったことが載せられている。
上記の件を検証してみたが、日常、車を使用する上でペンを車内に置くということは、想定されないことであろうか。いや、これはよくありがちなことで、夏場に車内にボールペンやノートをカバンに入れて放置することは誰でもあることだろう。
実験では書類ケールにペンを入れたまま社内に30分放置してみたが、この様なシチュエーションは車を多用する地方都市ならよくあることとだ。これが数十分という短い時間であっても、パイロットのフリクションボールペン(消せるペン)はインクが薄くなったと思ったら、次第に書けなくなってしまった。インクの残量を多く残していながら、遂には書けなくなってしまった。
では、家の中ではどうだろう。この様な事もあった。オーブンレンジの横に、たまたまメモ帳を置いていて、妻がオーブンレンジを使用しレシピ本を読みながらメモを取っていた。次の日「あ、私の書いた文字がない」妻は料理のメモを読み直そうとしたも、文字が無いのだ。オーブンレンジとの距離はオーブンレンジの取り扱い説明書に書いてある通り間隔は開けていた。
また、お恥ずかしい話だが、ある夜、私もコタツに入りながら仕事をしていて、ちょっと休憩をしようと横になった。その際にメモを見ながら寝入ってしまい、コタツの近くにあったメモの文字が数十分後に目が覚めたときには、すっかり消えてしまっていた。
この様にこの消せるペンを使用する際、通常の生活を送っている上で、温度が60度以上になる環境(実際には60度には達していないが)は様々なシーンで考えられるのだ。
相次ぐ文具店へのクレーム。他は泣き寝入りか?
ではこの消せるペンは、私が検証や経験をしたこの様な問題点で、果たしてクレーム等は出ていないのであろうか。実際に数箇所の文房具店で話を伺ってみた。すると、同じような経験をした人がかなり多くいるという事がわかった。
ちょうど文具店で取材をしていた際も、「替え芯が全て書けなくなった」「温度に気をつけていた訳ではないが普通に家に置いていたのに書けなくなった。どうなっているのか?」というクレームを言いに来た客がいた。この方に話を伺ってみたところ、今回だけに限った話では無く、同様な事が何度もあったという。今回は再三に渡って文字が書け無くなったので、我慢が出来ずクレームを言いに来たという事だった。
実際、注意書きがシールで貼られているとはいえ、小さい上に、同系色の物が多い。果たしてこの注意書きをしっかり読んで内容を把握してから、使用している人がどれだけいるのであろうか。ボールペンを買って注意書きを読む人は、まず少ないないだろうし、この様な同系色の文字で小さく書いていてよく読まないとわからない注意書きでは、欠陥商品を高額で売りつける、悪徳商法の契約書と同類ではないのか。
消せるペンというのはこすれば消えるというのはわかっていても、まさか60度やそこらで無色になり、ペン自体が使い物にならなくなるとは、ほとんどの人が把握していないだろう。
なぜなら、どのくらいの人が意外に低い温度で消えると知って購入しているのだろうか。
また、その他にも欠点と思われる、気になるところが何点もあった。
まず、インクが薄い。赤と青はそれほど気にならないが、確実に他のボールペンと言われている物より、色が薄い。ひょっとすると最近売れているゲルインキのようで水性ペンのように書き心地がいいが、線が2重になる。速く書くと、余計2重になりやすい。もちろん、販売環境、保存状態の違いもあると思い、何本も別々の店で購入して試してみたが、同じ結果だった。
また、コピーした書類に文字を書入れ、書き間違いを消そうとすると、コピーのトナーと相性が悪いのか、文字が黒く擦れて汚くなってしまう。消した跡が汚くなってしまうのは、消せるペンの使用経験者の殆どの意見だ。
そして、値段が高い。普通のボールペンの替え芯が1本、70円ぐらいだとすると最近は安くなってはいるが、100円ぐらいする。おまけにインクが水性のため、びっくりするくらいインクの減りが早いので、ランニングコストを考えると1本200円以上になるのではないだろうか。おまけに替え芯3本セットで買ってきても、果たして最後の3本目を使用するまで品質が保持できるのであろうか。
なぜなら、同一温度の環境で生活する人間など皆無だろうから、環境によって替芯が熱変化でそっくり使えなくなることが多いことも問題だ。
品質が良ければ多少高価でも問題はないかと思うが、今回書いた通り普通の日常生活をしていて、勝手に文字が消えてしまうのであれば欠陥品、100歩譲って未完成品と言えるのではないだろうか。
このような未完成の商品に支払う対価として普通のボールペンより倍近くするボールペンは、決して安い物ではないと思う。
また、文房具店の従業員によると「大きな声では言えないが新製品が出ると、メーカーからある程度まとまった本数の仕入れをお願いされる事がある」とのことだ。そのため、商品の善し悪しなど関係なしに、まずは売らなくてはならないという。長所のみを過剰宣伝して客に勧めていると言うのだ。そのため、従業員も短所の部分を完全には把握できていないとの事で、客からのクレームがあり、初めて知ることも多々あると言う。
普通のボールペンに比べれば高いとはいえ、大の大人にとって負担になる金額ではない。多くの消せるペンの使用者がクレームを言う事無く、泣き寝入りしているだろうという事が容易に想像できる。しかし製造販売元のパイロットや、消費者センターに苦情が多く寄せられているということも、調査の結果事実である。追調査の必要がありそうだ。